途方に暮れなずむ

途方に暮れていたり、いなかったり。

月がとっても綺麗ですね

山田詠美『血も涙もある』読了。

有名料理研究家であり師匠でもある沢口喜久江とその夫・太郎のあいだにするりと入り込んだ助手の桃子。「私の趣味は人の夫を寝盗ることです」という書き出しから始まり、lover, husband, wifeの3つの視点を順繰り3周、people around the peopleで締め括る10の章から成る物語。

著者の描く人物は、みんな魅力的で、ちょっとダメなところを持ち合わせている。むしろ、ダメなところが魅力的とも言える。おかげで、lover, husband, wifeのそれぞれに肩入れしながらゆらゆらと読み進めることになる。だって、3人が3人ともお互いを好きで必要としているんだもの。私からは一番遠い存在に思えるhusbandにだってたっぷり共感させられてしまうんだから、すごいとしか言いようがない。

皆がそれぞれ涙を流し、等しく何かを失った先に辿り着く結末は何とも意外なもの。崩れかけたジェンガを救う1ピース。ミステリーの謎解きのように「あ!」と声が出た。

 

山田詠美といえば、以前は、基地の街だったり、アメリカ、南国が舞台のイメージが強かった。ところが、今作は、境港の水木しげるロードや松江の由志園への旅でクライマックスを迎える。特に、池泉牡丹のシーンは圧巻。美しい情景がぱっと目の前に広がり、みるみる滲んだ。

 

血も涙もある

血も涙もある