途方に暮れなずむ

途方に暮れていたり、いなかったり。

遭遇

アイラブなんちゃらTシャツを着ている人を見かけると、一体何をそれほどまでに愛しておられるのか気になって仕方ない。

大都会ならもっとめくるめく世界が開けているのかも知れないが、こんな地方都市の、しかもコロナ禍とあっては、その遭遇率たるや微々たるもの。流れ星や、四つ葉のクローバーを探すのと、どっこいどっこいではないだろうか。ちなみに、私はどちらも不得手である。

そんな思いを隠し持っている私の前に、今朝、駅に向かうと思しきアイラブなんちゃらTシャツを着た男性が現れた。距離はそこそこ遠く、最近めっきり視力が低下傾向にある私にとっては、なかなかのチャレンジ案件である。そして、アイラブなんちゃらTシャツあるあるで、肝心な対象物を示す単語がいたずらな皺によって解読不可能ときている。とりあえず、映像としてしかとこの目に焼きつける。今日一番の正念場が朝8時すぎに訪れるとは。

乗り込んだ電車の中で、最初のアルファベットがTで、フォントがガタガタのブロック的なものであったことを手掛かりに推理する。

それにしても、かのアイラブなんちゃらTシャツを着た彼が乗り込んだ車両の乗客たちは何てラッキーなんだろう。きっと、一日一善どころか一時間一善ぐらいこなしている善人ばかりの集団に違いない。彼が目の前に立とうものなら、思う存分凝視できるのだから。私も見習って、もう少し真っ当に生きるべきだなあ。

大事な推理の合間合間に嫉妬やら反省やらが顔を覗かせるも、ついにひとつの結論に辿りつく。彼の愛してやまないもの、それはきっとテトリスではなかろうか。アイ・ラブ・テトリス。たぶん。ああ、この目で確認したかった。

そんなわけで、私がこの身に纏うならば、それは、アイ・ラブ・アイラブなんちゃらTシャツ。どこかで売ってないだろうか。