途方に暮れなずむ

途方に暮れていたり、いなかったり。

雨降って地固まる

とーさんの病気にまつわるドタバタは、とりあえず落ち着いた。リンパや骨への転移は、100%ないとは言い切れないものの、今のところは心配しなくていいんじゃないでしょうか、という医師のお墨付きをいただいたとのこと。治療が始まり、例のコブもすっと姿を消したらしい。

最近のとーさん。やけに食欲が出てきて、あれこれ食べるようになったと聞いて安心した。長らく味覚と嗅覚がおかしかったので、今はいろんな物がおいしくてたまらないのかも知れない。

 

ふと思い出したのは、中くらいの人が、生まれて初めてチョコレートを食べてしまったときのキラーンとした表情。食べてしまった、と書いたのは、私は、その時点で、まだ中くらいの人にチョコレートの存在を教えるつもりはなかったからだ。

観光地にて立ち寄った喫茶店のマスターが、手品でも披露するかのように、中くらいの人に一粒のチョコレートを、ひょいっと手渡した。あ、と思ったときには、時すでに遅し。中くらいの人の顔には前述の表情が浮かんでいた。そして、その後、立ち寄る先々で、ギブミーチョコレート的なことを繰り返し、大人たちを困惑させたのだった。

 

話はとてつもなく逸れてしまったが、ひょっとしたら、いま、とーさんはこんな状態なのではなかろうか。失われた20kg、取り戻すかな。できれば、取り戻すのはその半分ぐらいにして欲しいのが正直なところ。

 

たがいに年をとり、いささかあやうくなりかけていたとーさんとかーさんの関係は、とーさんの癌発覚で幾分マイルドになったように見える。ふたりが一緒になって、病に立ち向かったご褒美みたいなものだろうか。病気は憎いが、悪いことばかりではない、と信じたい。