途方に暮れなずむ

途方に暮れていたり、いなかったり。

そんなつもりでは

貫井徳郎『乱反射』読了。

あるひとりの幼児の死を巡る物語。

登場人物は、互いに何の繋がりも持たない、ごくごく普通の小市民たち。誰も幼児を死に至らしめるつもりはなかったが、ひとりひとりの小さな罪が連鎖して悲劇は起きた。

どこにでもありそうな日常の一コマを読み進めるにつれ、膨らんでいく嫌な予感。各章に冠された、-44から37までのシンプルな数字がカウントダウンの役割を果たし、息苦しさを増幅させる。0で、当日、幼児の身に何が起こったかが明かされ、そこから先の章では、父親による犯人探しの苦悩の日々が描写される。裁くことのできない小さな罪の集合体を前に、絶望を抱えるしかない遺族。でも、その遺族もまた、自らが知らず知らずのうちに同じような罪を犯して生きてきたことに気づくことになる。

殺意を持った人間は出てこない。凶悪な殺人犯も出てこない。もしかしたら、自分の何気ない行動が、どこかの誰かを不幸に陥れているかも知れないという恐怖を味わえてしまう一冊。