途方に暮れなずむ

途方に暮れていたり、いなかったり。

たたかう前期高齢者

内藤了『メデューサの首 微生物研究室特任教授 坂口信』読了。

 

定年退職ののち特任教授として帝国防衛医科大学に勤める微生物学者の坂口信。穏やかな日常は、亡き恩師の住まいを訪れたことで一変する。

突如降って湧いた新型ウイルスに感染後、ラットは互いを獰猛にむさぼり喰い、死んでいった。それを目の当たりにした坂口は、恐るべきゾンビ・ウイルスの処分を決断するが・・・といった内容。

 

ウイルス蔓延真っ只中にウイルスものを読むなんて、と思わなくもないが、積読に手を伸ばしたところ、応じてくれたのがこの一冊だった。読書も出会いです。

 

読みものとしては、とてもキャッチーなウイルスもの。その題材を軸に様々な要素が絡み合うのだが、私をもっとも惹きつけたのは、登場する人物たち。

研究以外のことには全く無頓着なまま人生を歩んできた坂口は、定年を迎えていざ第二の人生を!というところで妻に先立たれる。着るものも食べるものも無くなる前に誰かが用意してくれるのが当たり前、というめでたい世界からぽーんと投げ出され、悪戦苦闘する坂口の姿に完全に心を持っていかれた。もはやご飯を炊くことですらアドベンチャーであり、ミステリーである。そんな主人公を取り巻く人々もまた個性派揃い。守衛トリオ「ケルベロス」なんて、相当数のファンがいるぞ。日本のどこかに。

そんなこんなな坂口が、クライマックスでは『アルマゲドン』のブルース・ウィリスさながらのヒーローになるんだから。そして、気づけば、坂口ファミリーが、「あなた達で世界守れるんじゃない?」的な都合のいい設定になっているのはご愛嬌。

シリーズものになるならば、是非また読みたい。けど、そのためには世界が度々ウイルスの脅威にさらされる必要があるわけで。縁起でもない。