途方に暮れなずむ

途方に暮れていたり、いなかったり。

そう簡単には燃えつきないのが人間である

唯川恵『燃えつきるまで』読了。

 

あらすじ

住宅メーカーで着々とキャリアを積んできた怜子。5年の付き合いになる恋人は、怜子との結婚を望んでくれているが、仕事との兼ね合いで延ばし延ばしになっている。仕事もプライベートも充実していたはずなのに、ある日突然、恋人から別れを告げられ、怜子は自分を見失っていく。

 

というお話。お節介な友人は別れた恋人のその後の様子を逐一吹き込んでくるわ、期待を寄せていた後輩は結婚のため易々とキャリアを放り出して辞職するわ、とただでさえメンタルずたぼろの怜子に対して、容赦なく追い討ちをかける周囲の面々(悪意はあったり、なかったり)。追い詰められ、ストーカー行為に不法侵入、窃盗、器物破損などなど、もはや止まるところを知らない怜子の踏み外しっぷりが半端ない。読者は「もう十分だ、そのあたりでやめておけ」と切に願いながらページを捲ることになる。

 

これは、読み手側の立場や状況で色を変えるタイプの作品だ。いま、私はもうすでに人生を折り返した年齢で、恋愛は遠くなりにけり、である。その立ち位置から読むと、31歳の怜子の思考や行動は大なり小なり理解もできるし、隣で密かに補助ブレーキに足をかけつつ見守ることもできる。逆に、人生まだまだこれからという青少年が読んだなら、未知のものに対する恐れを抱いたり、「自分はこうはならない」という謎めいた自信を盾に冷ややかな視点を持つこともあるだろう。怜子の一世一代の恋に胸を焦がすことだってあるかも知れない。

ここだけの話、今ではすっかり干からびている私にだって、都会の大きな駅の改札前で、当時付き合っていた人と修羅場を繰り広げた過去がある。その頃の私が、タイムリーに、この作品に出会っていなくてよかったと心から思う。共鳴は、時に恐ろしいものだから。