私は、カセットテープ、CD、SDと変化に富んだ音楽ライフを享受してきた世代だが、今、CDの売り上げは大幅に落ち込んでいるらしい。そう言えば、先日、たまたまタワーレコードを通り抜けたところ、昔の半分ぐらいの広さ（狭さ）になっていて驚いたのだった。
とある日、中くらいの人が英語の学習用にCDプレイヤーが欲しいと言い出した。英語が最っ高に不得意な中くらいの人の突然の前向きな申し出に、私は浮き足立って家電量販店へ出向いた。
昔であれば、花形的な売り場に、ウォークマンやらCDウォークマン（ポータブルCDプレイヤー）やらラジカセやらがずらりと並び、若者で賑わっていたものだが、さて、フロアガイドを眺めてもそれらしきフロアはない。近くの携帯売り場の呼び込みを警戒しつつ（もはやおばさんは相手にされていない気もする今日この頃）、しつこくしつこく眺めまわした結果、やっとのことで「デジタルオーディオ」という売り場名が、小さく書かれているのを発見。該当のフロアに移動してからも、あまりにもひっそりしすぎていて、目当てのコーナーに辿り着くまでぐるぐると徘徊したのだった。そこまでの行程で相当なエナジーを使ってしまっていたが、いざ商品棚の前に立ってみると、もはや迷う余地すらあまりなく、「語学学習、リスニングにオススメ」と銘打った商品を購入することにした。
閑散としたレジで、アプリのダウンロード及び今まで使っていたポイントカードとの連携を勧められ、軽い気持ちでOKしたら大変なことになった。まず、ダウンロードに恐ろしいほど時間がかかり、ようやく完了したかと思ったら、私の登録状況が確認できないとか何とかで、エラーが連発。離れたところにあるカウンターに誘われ、コールセンター的なところと電話でやりとりをしながら自らのスマホを操作する事態にまで陥り、安請け合いしてしまった自分を呪うこととなった。私はこのよく分からないメーカーの数千円のCDプレイヤーが欲しいだけなんです、ポイントは今まで通りカードに貯まればいいです、カードは失くさないから大丈夫です、万一失くしたとしても文句は一切申しません、と心の中で何度も叫んだが、乗りかかった船を必死に目的地まで到達させようと頑張ってくださる店員さんを前に、おばさんと言えどもそのようなことは決して口にしてはならないという空気をひたすらに感じ、ことの成り行きに身を任せていた。
小一時間のすったもんだの末、目的は果たされた。元はと言えば、私が過去にネット登録していたという事実とその時のパスワードをきれいさっぱり忘れてしまっていたのがいけなかったらしい。アプリのダウンロードにえらい時間がかかったのも、私のスマホがしょぼいからにほかならない。
熱望していたよく分からないメーカーの数千円のCDプレイヤーをやけに重たく感じながら本通りを歩いていると、前方からスマホをいじりながら歩いて来た貞子が私の目の前でいきなり方向転換しようとしたものだから、あやうく衝突しそうになった。どうにか回避できたが、瞬間、貞子がびっくりするような大きな音量で舌打ちをした。耳の穴に触れるか触れないかぐらいのところから力の限り舌打ちをされたぐらいの衝撃、粘りっ気であった。耳を押さえて思わず振り向いて見たけれど、貞子は貞子のまま雑踏の中に姿を消していった。あまりのことにただただびっくりだったが、耳の不快感が消えてくるとともに腹が立ってきたので、呪いをかけておいた。私の呪いは安心の緩効性なので、今頃貞子の身にじわじわと不幸が訪れているだろう。世界舌打ち選手権にでも出場して、好成績をマークするもビデオ判定で反則が発覚、惜しくも賞金1億円逃したところで引退しやがれ！貞子め！
